癌(がん)・HIVの障害年金

胃がん、乳がん、大腸がん、肝臓がん、肺がん、悪性リンパ腫など、がんにもさまざまな種類がありますが、全てのがんが障害年金の対象となります。申請するうえで、いくつかの注意点がありますので、慎重に手続きを進めていきましょう。

がんの場合に理解しておきたいのは、人工肛門や新膀胱の造設、あるいは尿路変更術など、目に見えて身体の機能が変わった場合だけが障害年金の申請対象となるわけではないということです。抗がん剤の副作用による倦怠感(だるさ)や末梢神経障害(しびれ、痛み)、貧血、下痢、嘔吐、体重減少など、客観的にわかりにくい内部障害の場合でも、その原因ががんの治療によるものであり、現在の仕事に支障をきたすことが認められれば支給される可能性があります。

がんは、発生した場所によって様々な障害が起こりますが、次のような抽象的なものが、障害年金の対象となります。
(1)発生した局所の障害 ex.肺がん等、数値でわかりやすく現れるタイプ
(2)全身の衰弱 ex.がんが大きくなっていたり転移していたりで衰弱が起きているタイプ
(3)治療の効果として起こる全身衰弱または機能の障害 ex.抗がん剤の副作用で衰弱が起きているタイプ
審査は、がんによって日常生活がどれだけ制限されているかで判断されていきます。また、自覚症状も重要です。全身衰弱、倦怠感、発熱、痛み、易感染症など、がんによる(または薬の副作用による)症状がある場合は、必ず記入してもらいます。複数の部位に転移している場合は、「〇〇に転移」といった文言も入れてもらいます。

障害の程度を一般状態区分表で示すと、次のとおりです。

区分 一般状態
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの

各等級に相当すると認められるものを一部例示すると、次のとおりです。

等級 障害の状態
1級 著しい衰弱又は障害のため、一般状態区分表のに該当するもの
2級 衰弱又は障害のため、一般状態区分表の又はに該当するもの
3級 著しい全身倦怠のため、一般状態区分表の又はに該当するもの

認定基準では、次のことが書かれています。

悪性新生物による障害の程度は、組織所見とその悪性度、一般検査及び特殊検査、画像検査等の検査成績、転移の有無、病状の経過と治療効果等を参考にして、具体的な日常生活状況等により、総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって、長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に、また、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3級に該当するものと認定する

従って、意外と盲点ですが、初診日から1年6か月(障害認定日)の頃を請求しようとして、当時は余命宣告を受け、ステージⅣの壮絶な治療を行っていても、1年以内に快方に向かっていると、認定は難しくなります。

なお、再発、転移していれば、全身の衰弱状況にもよりますが、2級の可能性が高くなります。がんも併発された傷病やがん及び治療の結果生じた障害がある場合は併合認定され、上位等級での認定の可能性が高くなります。その障害の状態を的確に示すことができる診断書を複数提出することになります。がん・治療の副作用による障害、術後後遺症、人工肛門、新膀胱増設、尿路変更術はその他障害の診断書です。例えば、うつ病を併発された場合は精神障害診断書、身体動作能力低下の障害も現れた場合は肢体障害の診断書を追加します。

がんは初診日から1年6月経過した日以後に請求が可能となります。前回請求日から1年経過すると、悪化した状態で上位等級への変更請求(額改定請求)が可能です。

しかし、障害認定日の特例があり、例えば、大腸がん手術で人工肛門を設置された場合は、初診日から1年6月経過しなくても3級以上に認定されます。初診日に厚生年金加入なら、設置から6月後に請求可能です。

身体状況 障害認定日
人工肛門造設・尿路変更術 装着日から6月後
人工膀胱 装着日
喉頭全摘出 摘出日
在宅酸素療法 療法開始日
胃ろう等の恒久的措置実施 原則6月経過日以降
治療の副作用による倦怠感・悪心・嘔吐・下痢貧血・体重減少などの全身衰弱 初診日から1年6月

がんでの障害年金請求は請求する時期の見極めが重要ですが、請求を決めたら早く書類を窓口に提出しましょう。

白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫

血液・造血器疾患は、臨床像から次の3つに大別されています。
ア 赤血球系・造血不全疾患(再生不良性貧血、溶結性貧血等)
イ 血栓・止血疾患(血小板減少性紫斑病、凝固因子欠乏症等)
ウ 白血球系・造血器腫瘍疾患(白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫等)
すなわち、ここ(癌のページ)では、ウ についての認定要領を記載します。

1級⇒A表Ⅰ欄に掲げるうち、いずれか1つ以上の所見があり、
   B表Ⅰ欄に掲げるうち、いずれか1つ以上の所見があるもので、
   かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2級⇒A表Ⅱ欄に掲げるうち、いずれか1つ以上の所見があり、
   B表Ⅱ欄に掲げるうち、いずれか1つ以上の所見があるもので、
   かつ、一般状態区分表のエ又はウに該当するもの
3級⇒A表Ⅲ欄に掲げるうち、いずれか1つ以上の所見があり、
   B表Ⅲ欄に掲げるうち、いずれか1つ以上の所見があるもので、
   かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの

A表

区分

臨床所見

1 発熱、骨・関節痛、るい瘦、貧血、出血傾向、リンパ節腫脹、易感染性、肝脾腫等の著しいもの
2 輸血をひんぱんに必要とするもの
3 治療に反応せず進行するもの

1 発熱、骨・関節痛、るい瘦、貧血、出血傾向、リンパ節腫脹、易感染性、肝脾腫等のあるもの
2 輸血を時々必要とするもの
3 継続的な治療が必要なもの

継続的ではないが治療が必要なもの

(注1)A表に掲げる治療とは、疾病に対する治療であり、輸血などの主要な症状を軽減するための治療
    (対症療法)は含まない。
(注2)A表に掲げる治療に伴う副作用による障害がある場合は、
    その程度に応じて、A表の区分をⅡ以上とする。

B表

区分 検査所見

1 末梢血液中のヘモグロビン濃度が 7.0g/dL 未満のもの
2 末梢血液中の血小板数が 2 万/μL 未満のもの
3 末梢血液中の正常好中球数が 500/μL 未満のもの
4 末梢血液中の正常リンパ球数が 300/μL 未満のもの

1 末梢血液中のヘモグロビン濃度が 7.0g/dL 以上 9.0g/dL 未満のもの
2 末梢血液中の血小板数が 2 万/μL 以上 5 万/μL 未満のもの
3 末梢血液中の正常好中球数が 500/μL 以上 1,000/μL 未満のもの
4 末梢血液中の正常リンパ球数が 300/μL 以上 600/μL 未満のもの

1 末梢血液中のヘモグロビン濃度が 9.0g/dL 以上 10.0g/dL 未満のもの
2 末梢血液中の血小板数が 5 万/μL 以上 10 万/μL 未満のもの
3 末梢血液中の正常好中球数が 1,000/μL 以上 2,000/μL 未満のもの
4 末梢血液中の正常リンパ球数が 600/μL 以上 1,000/μL 未満のもの

後天性免疫不全症候群(AIDS)の障害年金

ヒト免疫不全ウイルス感染症とその続発症による疾病及び障害については、①「ヒト免疫不全ウイルス感染症に係る障害認定について」(平成10年2月4日付庁保険発第1号通知)と②平成23年A基準、③平成23年B基準(平成23年1月31日付年管管発0131第1号通知)の3基準に当てはめ、この3つのうち、最も本人に有利な基準で認定されます。

①平成10年基準

ヒト免疫不全ウイルス感染症による障害認定の対象となる障害は、次のとおりであること。
(1) ヒト免疫不全ウイルス感染症とその続発症による労働及び日常生活上の障害
(2) 副作用等治療の結果として起こる労働及び日常生活上の障害
【障害認定のあり方について】
 続発症(ヒト免疫不全ウイルス消耗症候群、日和見感染症等)の有無及びその程度
 及びCD4値*1等の免疫機能の低下の状態を含む検査所見、治療及び症状の経過を十分考慮し、
 労働及び日常生活上の障害を総合的に認定すること。

 *1:CD4値:血液中に含まれるリンパ球の一種で、免疫全体を つかさどる機能を持つリンパ球数のこと。
【障害の程度】
(1) 各等級の例は以下である。

1級 回復困難なヒト免疫不全ウイルス感染症及びその合併症の結果、生活が室内に 制限されるか日常生活に全面的な介助を要するもの
2級 エイズの指標疾患や免疫不全に起因する疾患又は症状が発生するか、その既往 が存在する結果、治療又は再発防止療法が必要で、日常生活が著しく制限されるもの
3級 エイズ指標疾患*2の有無にかかわらず、口腔カンジダ症等の免疫機能低下に関 連した症状が持続するか繰り返す結果、治療又は再発防止療法が必要で、労働が制限 されるもの

  *2:エイズ指標疾患:サーベイランスのためのAIDS診断基準における特徴的症状に 該当する疾患
(2) 病状の程度については、
 一般状態が次表の一般状態区分表のオに該当するものは1級に、
 同表のウ又はエに該当するものは2級に、
 同表のイ又はウに該当するものは3級
 概ね相当するので、認定の参考とすること。
(3) 1級及び2級においては労働能力の喪失等の状態、
 また、2級においては日常生活上の障害の状態についても把握し、的確に評価すること。
【検査所見及び臨床所見について】
 検査所見及び臨床所見については、ヒト免疫不全ウイルス感染症の特性を踏まえ、
 以 下の項目に留意し、認定を行うこと。
 1.疲労感、倦怠感、不明熱、体重減少、消化器症状の程度、出現頻度、持続時間
 2.日和見感染症、悪性腫瘍の種類、重症度、既往、出現頻度
 3.CD4値、ヒト免疫不全ウイルス―RNA定量値、白血球数、ヘモグロビン量、血小板数の状況
 4.治療の状況(治療薬剤、服薬状況、副作用の状況)
 なお、現時点におけるエイズ治療の水準にかんがみ、CD4値が200未満の状態では、
 多くの感染者において強い疲労感、倦怠感が認められており、
 また、この段階では、多 数の日和見感染症等の発症の可能性が高まるために、
 抗エイズ薬等の多剤併用療法が 実施され、重篤な副作用を生じる結果、
 労働および日常生活が著しく制限される場合 が多いことにも留意すること。
【複数の外部障害、精神の障害等が存在する場合の認定について】
 ヒト免疫不全ウイルス感染症及びその続発症によるか、
 又はヒト免疫不全ウイルス感染症に対する治療の結果によるかの原因の如何を問わず、
 視機能障害、四肢麻痺、精 神・神経障害等の不可逆的な障害は、原疾患との併合認定により認定すること。

②平成23年A基準、③平成23年B基準

◆1級⇒[A](ア+イ+ウ)又は[B]を満たす場合とする
【検査項目】
 ア CD4値が200/μl以下(4週以上の間隔をおいた直近の連続する2回の検査値の平均値)
 イ 以下の項目のうち、3つ以上を満たす(4週以上の間隔をおいた直近の検査において連続して2回以上続く)
  a 白血球数が3,000/μl未満
  b ヘモグロビン量が男性12g/dl、女性11g/dl未満
  c 血小板が10万/μl未満
  d ヒト免疫不全ウイルス―RNA量が5,000コピー/ml以上
【身体症状等】
 ウ 以下の項目のうち、4つ以上を満たす
  a 1日1時間以上の安静臥床を必要とするほどの強い倦怠感及び易疲労感が月に7日以上ある
  b 病態の進行のため、健常時に比し10%以上の体重減少がある
  c 月に7日以上の不定の発熱(38℃以上)が2ヶ月以上続く
  d 1日に3回以上の泥状ないし水様下痢が月に7日以上ある
  e 1日に2回以上の嘔吐あるいは30分以上の嘔気が月に7日以上ある
  f 動悸や息苦しくなる症状が毎日のように出現する
  g 抗HIV療法による日常生活に支障が生じる副作用がある(a~f以外)(抗HIV療法を実施している場合)
  h 生鮮食料品の摂取禁止等の日常生活活動上の制限が必要である
  i 1年以内に口腔内カンジダ症、帯状疱疹、単純ヘルペスウイルス感染症、伝染性軟属腫、
    尖圭コンジローム等の日和見感染症の既往がある
  j 医学的理由(注1)により抗HIV療法ができない状態である
 B 回復不能なエイズ合併症のため介助なくしては日常生活がほとんど不可能な状態(注2)である

◆2級⇒[A](ア+イ+ウ)又は[B](ア+エ)を満たす場合とする
【検査項目】
 ア CD4値が200/μl以下(4週以上の間隔をおいた直近の連続する2回の検査値の平均値)
 イ 以下の項目のうち、2つ以上を満たす(4週以上の間隔をおいた直近の検査において連続して2回以上続く)
  a 白血球数が3,000/μl未満
  b ヘモグロビン量が男性12g/dl、女性11g/dl未満
  c 血小板が10万/μl未満
  d ヒト免疫不全ウイルス―RNA量が5,000コピー/ml以上
【身体症状等】
 ウ 以下の項目のうち、3つ以上を満たす
  a 1日1時間以上の安静臥床を必要とするほどの強い倦怠感及び易疲労感が月に7日以上ある
  b 病態の進行のため、健常時に比し10%以上の体重減少がある
  c 月に7日以上の不定の発熱(38℃以上)が2ヶ月以上続く
  d 1日に3回以上の泥状ないし水様下痢が月に7日以上ある
  e 1日に2回以上の嘔吐あるいは30分以上の嘔気が月に7日以上ある
  f 動悸や息苦しくなる症状が毎日のように出現する
  g 抗HIV療法による日常生活に支障が生じる副作用がある(a~f以外)(抗HIV療法を実施している場合)
  h 生鮮食料品の摂取禁止等の日常生活活動上の制限が必要である
  i 1年以内に口腔内カンジダ症、帯状疱疹、単純ヘルペスウイルス感染症、伝染性軟属腫、
   尖圭コンジローム等の日和見感染症の既往がある
  j 医学的理由(注1)により抗HIV療法ができない状態である
【その他】
 エ エイズ発症の既往歴がある
◆3級⇒[A](ア+イ+ウ)又は[B](ア+エ)を満たす場合とする
【検査項目】
 ア CD4値が350/μl以下(4週以上の間隔をおいた直近の連続する2回の検査値の平均値)
 イ 以下の項目のうち、2つ以上を満たす(4週以上の間隔をおいた直近の検査において連続して2回以上続く)
  a 白血球数が3,000/μl未満
  b ヘモグロビン量が男性12g/dl、女性11g/dl未満
  c 血小板が10万/μl未満
  d ヒト免疫不全ウイルス―RNA量が5,000コピー/ml以上
【身体症状等】
 ウ 以下の項目のうち、2つ以上を満たす
  a 1日1時間以上の安静臥床を必要とするほどの強い倦怠感及び易疲労感が月に7日以上ある
  b 病態の進行のため、健常時に比し10%以上の体重減少がある
  c 月に7日以上の不定の発熱(38℃以上)が2ヶ月以上続く
  d 1日に3回以上の泥状ないし水様下痢が月に7日以上ある
  e 1日に2回以上の嘔吐あるいは30分以上の嘔気が月に7日以上ある
  f 動悸や息苦しくなる症状が毎日のように出現する
  g 抗HIV療法による日常生活に支障が生じる副作用がある(a~f以外)(抗HIV療法を実施している場合)
  h 生鮮食料品の摂取禁止等の日常生活活動上の制限が必要である
  i 1年以内に口腔内カンジダ症、帯状疱疹、単純ヘルペスウイルス感染症、伝染性軟属腫、
   尖圭コンジローム等の日和見感染症の既往がある
  j 医学的理由(注1)により抗HIV療法ができない状態である
【その他】
 エ エイズ発症の既往歴がある

(注1)「医学的理由」とは、投薬による肝障害、白血球数減少などの副作用などの医学的事項によるものをいう。(注2)「回復不能なエイズ合併症のため介助なくしては日常生活がほとんど不可能な状態」とは、エイズ合併症(「サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準」(厚生省エイズ動向委員会,1999)が採択した指標疾患としてあげられている合併症」)が回復不能に陥り、日常生活のほとんど全てが介助なしでは過ごすことができない状態をいう。

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